研究概要 |
我々はこれまで,新生仔期ラットに神経毒(6-OHDA)を投与して脳内ドーパミン(DA)系を損傷することにより,多動児のモデルを作成し,このモデルラットの特徴を解析してきた.その結果,新生仔期DA系損傷ラットが多動児の特徴を再現すること,しかし一方で,報酬性の学習にほとんど障害が認められず,脳内DA系の補償作用が働いている可能性が示唆された.本研究は,発達初期に損傷を受けたDA神経系で生じるこの補償作用のメカニズムを,中脳腹側被蓋野に存在する神経ペプチド,ニューロテンシンの関与に注目しながら解明することであるが,本年度はまず,新生仔期DA系損傷ラットの成体時における報酬特性の行動的検索と,脳内DA神経系の生化学的検索を行った。 白と黒の2室から成る条件性場所選好(CPP)テスト装置を用いて,DA放出促進作用を有するメサンフェタミン(MAP)のCPP条件づけを行い,MAPと条件づけられた部屋に対する選好を調べたところ,新生仔期DA系損傷ラットは統制群と同程度の選好を示し,報酬効果は正常レベルに維持されていた。脳組織中DA含量の生化学的測定を行ったところ,脳内報酬系部位であり,DA神経系の終末部である側坐核の含量は統制群の30%以下であったが,マイクロダイアリシスによって同部位の細胞間隙中のDA遊離量を調べたところ,新生仔期DA系損傷ラットのDAレベルは統制群とほぼ同じであった。従って,発達初期に損傷を受けたDA神経系,とくに側坐核において,細胞間隙中のDA量を一定に保とうとする補償メカニズムが働いている可能性が示唆され,来年度はそれにかかわる中脳のニューロテンシンの役割を,マイクロダイアリシスを用いて検討する予定である。
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