本年度は、瞳孔反応に寄与する色度変化検出メカニズムの特性を明らかにするため、錐体コントラスト空間内に表現される色刺激に対する瞳孔反応の特性を検討した。その結果、以下のような成果を得ることができた。 (a)瞳孔反応への(L-M)過程の寄与に関して、色度変化と輝度変化の関係を組織的に操作して検討したところ、2log程度の閾上レベルにおいても(L-M)過程の寄与が認められた。この知見は、瞳孔反応を用いれば、色情報処理に関与する(L-M)過程の特性を、広い強度範囲にわたって、容易に検討できることを意味している。 (b)刺激条件を適切に整えれば、瞳孔反応に寄与する色度変化検出メカニズムは、一過性の時間応答特性を示すだけでなく、持続性の応答特性を示すこともあることが明らかとなった。錐体信号相互作用については、持続性の応答過程についてもL錐体信号とM錐体信号の減算によって記述可能であり、一過性の応答過程とかなり類似した特性を示した。 (c)瞳孔反応においてもコントラスト変調順応後に応答性の低下が認められた。コントラスト変調順応による応答性の低下は、大脳視覚野の細胞ではじめて認められることが電気生理学的研究から示されていることから、この結果は、大脳視覚野の色情報処理過程が瞳孔反応に寄与していることを示す重要な知見である。 (d)順応刺激の色変調方向やコントラストを操作しながら、コントラスト変調順応後の応答性の低下を検討したところ、(L-M)過程の単一性を示す証拠が得られた。この点に関しても、心理物理学的知見と類似した結果が得られた 本研究は、視覚刺激に対する瞳孔反応が人間の視覚情報処理に関する他覚的指標となりうることを示すことを目指しているが、本年度の成果から、少なくとも色度変化検出に関しては、瞳孔反応が重要な他覚的指標となりうることが示されたと考えられる。
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