研究概要 |
公正の絆仮説とは、組織や集団による決定が公正に成されたと知覚することが人々の組織や集団に対する肯定的態度(集団コミットメント)を強めるというものである。本研究では、日本の社会システムに対する一般市民の評価と態度を分析することによってこの仮説の検討を目指した。本年度は、社会システムとして裁判及び裁判外の紛争解決制度に焦点を当てたが、特に消費者紛争に注目し、一般市民の紛争経験の分析を通してこれらの制度に対する彼らの評価と信頼感を検討した。日本社会は、従来、紛争の事前回避を原則に、許認可権を持つ官庁が厳しい規制と監視によって商業活動に介入していた。90年代に入り規制緩和が進む中で、商業活動の自由化が進行し、例えば、伝統的な店頭販売に加えて、カタログ販売、インターネット販売など商業形態の多様化が進み、これに伴って消費者紛争も増加している。紛争解決の原則は従来の事前回避型から事後解決型へと移行しつつあるが、しかし、紛争解決のための社会的制度の整備や国民の意識は、現実社会のこうした変化に対応しているとは言えない。本研究では、全国9地区の選挙人名簿から任意抽出した成人3,000人に対する郵送調査を行い、消費者紛争の経験の有無、紛争の原因と経緯、被害の種類と深刻さ、紛争解決のために取った手段、紛争解決制度の利用とそれに対する評価、結果とその評価などを聞いた。これを通して消費者紛争と紛争処理制度に関する一般市民の認知に関して信頼できるデータの収集につとめた。
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