研究概要 |
公正の絆仮説とは、組織や集団による決定が公正に成されたと知覚することが人々の組織や集団に対する肯定的態度(集団コミットメント)を強めるというものである。本研究では、日本の社会システムに対する一般市民の評価と態度を分析することによってこの仮説の検討を目指した。本年度は、日本の社会システムに対する公正評価と、これに加えて公共事業に焦点を当てた。公共事業はしばしば地域に紛争を引き起こすので、政策や公的機関の評価に加えて、紛争解決の方策についても検討することを目的として、実験と調査を行った。行政と住民の合意形成を困難にするひとつの要因は情報の非公開による情報の非対称性(行政側に情報が偏る)なので、この点に焦点を当てた実験的研究を行った。情報の非対称性が当事者によって意図的に作り出されていると感じた場合と、それが構造的に生じていると感じた場合では交渉に対する影響が異なると予想して、交渉に対する人々の反応を比較したところ、情報の非対称性は予想したように合意を妨げ、交渉に対する満足感を低下させたが、原因に対する知覚はこれらに無関係で、交渉に与える情報公開の重要性が確認された。次に、全国16地区の選挙人名簿から任意抽出した成人3,000人に対する郵送調査を行った。第1部では、社会的公正感とその原因を、個人として、職業集団の成員として、地域集団の成員として、そして国民の一人としての4つの立場から尋ねた。これらに対する反応を通して、水準別の公正感とその構造の違い、また、水準間の連動性などを探ることが目的である。また、前回同様に、「国不変信念」を測定し、この強弱と社会的公正感、国に対する行動反応の違いを検討した。第2部では、公共事業に対する期待と評価、公共事業に関する地域紛争の理解、解決策などについてたずねた。
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