研究概要 |
公正の絆仮説とは、組織や集団による決定が公正になされたと知覚することが人々の組織や集団に対する肯定的態度(集団コミットメント)を強めるというものである。本研究では、日本の社会システム、機関、政策、制度などに関する人々の評価と態度を分析することによってこの仮説の検討を試みた。実施した研究は以下の通りである。(a)一般市民を対象とし、郵送調査によって彼らの国に対する態度と政府や行政システムに対する公正評価を検討する研究を3年度にわたって実施した(各年度、調査対象者数は3000人、回答者数は各々930人,872人,772人)。(b)これらの調査の際、同じ対象者たちに、消費者紛争に関する判及び裁判外紛争解決制度の評価と利用実態、公共事業政策の評価と紛争解決方法などに関する調査も併せて実施した。(c)民事訴訟経験者を対象に、訴訟と裁判制度に関する満足度と公正評価の関係を郵送調査によって実施した(200名に依頼し99名から回答を得た)、(d)消費者紛争のための裁判外紛争解決制度をコンピュータによってシミュレートし、手続き的公正の要因と効果を実験的に検討した(大学生120人)、(e)日本企業の従業員を対象に組織内葛藤における争点、方略、結果に関する郵送調査を行った(127社に635部を配布し、149名から回答を得た)。社会的公正感、政府に対する信頼、公共事業政策、裁判制度などに対する回答者の評価は全体として厳しいものであったが、しかし、それらを公正と評価している人は、それらの機関、政策、制度に関して肯定的な態度を抱いていた。また、組織内葛藤においても、特に情報的公正がその建設的解決を促すことが見いだされた。これらの調査や実験による研究結果は組織や集団に対する態度形成において手続き的公正の役割が重要であることを示唆しており、全体として、絆仮説の妥当性を確認するものであった。
|