本研究では、「思いやりの互恵性と日本的自己の生成」に関して一連の研究を執り行ってきた。これに先立つプロジェクト「日本的自己:矛盾と統合のダイナミックス」においてわれわれは、1)日本的自己の一側面が「思いやり」という対人的慣習に根差していること、、そして、2)その点を考慮に入れることにより、「自己批判的傾向」をはじめとするいくつかの日本やアジアの諸地域に比較的固有の心理傾向の性質が明らかになることを指摘した。本研究は、このような知見の延長上に構想され、3年を経て、その構想はいくつかの方向へと分化しつつ、全体として、「日本的自己」のより包括的理解に寄与することができた。具体的には、まずわれわれは、相互独立、相互協調といった自己感が対人的関係性に根差したものとして理解することにより、より十全な理論的枠組みが可能になると提唱した。ついで、この知見を特に主観的幸福感に適用し、実証研究のレビューを行った。これら理論的作業と平行して、同様の理論的枠組みに準拠し、われわれは、感情経験の日米文化差を「日記法」を用い検討し、また、幸福感に至る心理的経路には、主観的なものと間主観的なものの2種があると提唱し、その仮説を検証する調査研究を行い、最後に、これらの考察を通じて重要性が明らかになった暗黙の自己評価の現象について日米比較研究を行い成果を得た。総じて、これらの研究は、日本的自己とは、アメリカの自己と比較して、非常に関係志向的であること、ただし、この関係志向性は、内省判断や内省報告ではなく、オンラインの行動・思考・感情の指標でもっとも顕著に見られることを示している。
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