研究概要 |
本研究は、複雑系研究の中で生まれてきた「創発(emergence)」の概念を人間の思考に適用し、有限の要素からいかに豊な思考結果が生み出されるかについて検討するため、知識の垂直的(螺旋的)階層化にとって「再帰(recursion)」と知識の水平的リンク形成にとって重要な課程である「アナロジー(analogy)」の機構を、認知心理学の方法論によって解明することを目的とした。平成11年度は、「創発」「再帰」「アナロジー」という3つの鍵概念の内容をHolyoak, K.のシンボリック・コネクショニスト・モデルなどを参照しながら検討し、それを解明するために必要な認知心理学実験の方法論的な問題を検討した。平成12年度〜平成13年度は、実際に3つの認知心理学実験を実施した。 第一の実験は、大学生を対象とし、村に二件しかないファーストフード店の値下げ競争というゲーム理論の「囚人のジレンマ」の状況において、相手(「機械」又は「人間」と教示)の選択戦略の再帰的性質が、その相手に対する印象評定値に大きく影響する(例;しっぺ返し戦略には「意地悪さ」を感ずる)ということを示した。 第二の実験は、小学校高学年児童を対象とし、物語文の読解において、該当文の前後のみを参照すれば良い局所的読解と比べて、該当文の周囲だけでなく文章全体の内容を参照する必要のある包括的読解において、再帰的性質を持つ「心の理論」課題である二次的信念課題の成績との関連がより深いことを示した。 第三の実験は、大学生を対象とし、予備調査で知名度が高く類似性が確認された合計七組の著名人のペア(例;ナイチンゲールとマザーテレサ)のそれぞれについて、両人のライフコースに関する各10件の具体的な情報提示よって、アナロジー的関係がどのように変化するかを調べ、アナロジーが保持される場合と変化する場合とを検討した。
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