バセドウ病患者46名に対して、神戸市内の隈病院で心理検査と心理面接を実施した。心理検査として主に用いたのは、質問紙法のMPI、および投影法のバウムテストと室内画である。これらの結果から、MPIでは、バセドウ病患者は確かに焦燥感や不安などを訴える傾向があるものの、それは神経症的な葛藤から生じるものというよりも、もっと心身未分化な次元での感覚に関わるものではないかと推測された。また、バウムテストでは、全体的にエネルギーの低さが特徴的で、形態水準もあまり良くないことが明らかになった。これらの結果からも、バセドウ病患者におけるエネルギー統制の問題が示唆された。またこれらの患者においては、自我境界が脆弱で外界からの刺激にさらされやすい状態にあることが、彼らの消耗感や不安につながっている可能性も推測された。また、室内画では、空間構成に困難をきたすものが患者群で多く見られた。 これらの結果を考え合わせた結果、われわれの研究では、バセドウ病患者における自我の脆弱さ、主体感覚の希薄さを推測するに至った。従来、身体疾患として内科医のもとで治療されてきたバセドウ病であるが、これらの患者が、精神的にも消耗し、外界から自身を守る力も脆弱な状態にあること、また自分という主体感覚が不安定な傾向があることを示したのは意義深い結果である。また、本研究の実施期間中に行われた心理面接からは、彼らが困難な事態の中で振り回されやすく、自身の観点から状況を総合的に説明することに困難をきたしているさまが感じられ、上記の心理検査の結果を裏付けるものとなった。以上の結果から、バセドウ病の治療においては、身体面の治療のみならず、精神面でのサポートも念頭に置きながら進めていく必要性が示唆された。
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