本研究の目的は、バセドウ病患者の人格構造を臨床心理学視点から検討することであった。神戸市の隈病院にてバセドウ病と診断された46名、および35名の対照群に対して、質問紙調査と2種類の描画テストを実施し、その結果の比較検討を行った。また、バセドウ病患者との心理面接(心理療法)も行った。 主な結果は以下の通り。1)モーズレイ性格検査(MPI);バセドウ病患者では、特に神経症傾向が高いとはいえなかった。すなわち、彼らが臨床的に示す情緒不安定さは、いわゆる神経症傾向とは異質なものであることが推測された。2)バウムテスト;バセドウ病患者では、エネルギーの乏しさや形態の奇妙さが特徴的であった。また、幹の先端処理の困難さからは、バセドウ病患者の自我境界の脆弱さが推測された。バウムテストとMPIの結果からは、バセドウ病患者が神経症水準よりも重篤な病態水準にあることが推測された。3)室内画;バセドウ病患者の描画には空間構成が崩れたものが多いことが認められた。われわれは、このような空間構成のできなさを、"主体"の未成立の問題として考察した。4)心理面接(心理療法);バセドウ病患者の語り方として、話のまとまりにくさが特徴的であった。これも、上記の室内画と同様、"主体"の未成立にかかわる問題であると考察された。
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