研究概要 |
前年度調査対象地が,全町民(4000人)が一日に消費する米が生産できないという山村であったこと,また日本の中部地域であったことから,今年度は山形の庄内平野,中でも平均4町歩の水田を耕す鶴岡市栄地区をフィールドとして4種類の調査をおこなった。夏に3種類の質問紙,3月におこなった,「人間の生き方に関する基本調査」である。 いずれも,前年度に得た水窪町との比較がなされた。現在,分析が終了したのはセルフに関する意識構造のみであるが,いくつかの特徴が明らかになった。まず注目できるのは,天水依存の畑作農耕をおこなっている水窪町住民の,自主独立傾向の強さである。つまり他人の援助を拒み,自助努力を追求する生き方が水窪町に強いのである。逆に,今でこそ農地整理がなされ,省略化で機械化耕作の水田稲作農耕であるが,40年前には,まだ牛や馬,あるいは人力によって全ての作業がおこなわれていた。そのため,共同作業や協調性が強く意識されてきた平野部の人たち,つまり鶴岡市栄地区では,援助を抵抗なく受け入れる意識構造が未だに強く残っていた。これは黄河流域の河北省の学生に見つかった自助努力重視の意識構造,及び,上海の学生に見つかった人間関係重視の意識構造と比較をするとき,人間の意識構造を根底で規定するのは,文化ではなく労働内容であるということを示唆している点でおもしろい。 当然のことながら,50歳以上,50歳未満という年齢コホート間にも違いが見つかっている。典型的なのが,50歳以上は自己主張が強い人間が嫌いなことである。一方,50歳未満は人の話をあまり聞こうとしなかったり,妥協を嫌う行動傾向が強いことなどが一つの特徴であった。特にこの傾向は鶴岡の若い世代に強調されたが,彼らは兼業農家であり,日常的には会社などで勤務しているということが影響している可能性は残る。
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