本研究では、子供のハザード知覚能力が学年の経過とともにどのように発達するかを調べるとともに、ハザード知覚とリスク評価、リスク対処行動の関連性を検討した。さらに、学年差及び性差がどのようにリスク関連指標の得点と関連しているかを調べた。ハザード場面と自信度とリスク評価を設問したテスト「あぶないのどれかな?」、リスク対処行動の能力を測るために、「どうしたらいいの?」のテストと「いつもどうしてる?」のテストを作成した。「どうしたらいいの?」は、交通場面でのリスク回避の方法を選択肢の中から選ぶというテストである。「どうしたらいいの?」は、日常の交通行動の傾向性を測るテストである。調査1では、三重県鈴鹿市の小学校1年生から6年生までの児童283名(男子131名、女子152名)、調査2では608名(男子327名、女子281名)が回答した。 ハザード知覚に関する結果は、学年別の比較では、ハザード知覚得点は1年生が低く、2年生から3年生にかけて急速に上昇し、その後緩やかな増加傾向を示した。これは、心身機能の発達で基本的な状況理解力が上昇するとともに、交通状況での経験にともない、ハザード対象の習得が成立していると考えられる。また性別においては、男子の方が女子よりもハザード知覚得点は高かった。これは、男子は女子より交通状況でのハザードを含む場面の経験量が多いことがこの結果をもたらしたと解釈した。自信度については、低学年の場合、正解でも不正解でも自信度が高かったが、高学年になると正解の時は自信度が高く、不正解の時は自信度が低くなり、正当に自分の自信を評価できる力が備わってきたといえる。リスク評価については、学年の上昇とともに低くなった。また、女子より男子の方がリスク評価が低くなった。リスク対処行動であるリスク回避は、学年が上がるにつれて上昇した。ハザード知覚と同様に、低学年児童が低く、3年生以上で得点は安定した。一方、性別の効果では、ハザード知覚得点と異なって女子の方が男子よりも得点が高かった。日常交通行動傾向に関して、学年が上がるにつれて得点が低くなり、リスク回避傾向が弱まる、逆に言えばリスクテイキング傾向が強まるという結果であった。指標間の関連性は低学年ではほとんど見られず、中学年ではハザード知覚やリスク対処行動の理解面での弱い関連性が見出され、高学年児童の場合、こうしたリスク評価や理解面の指標と日常行動面との関連性が検証できた。つまり、高学年ではリスク知覚の能力面と行動面での関連が見られたという結果であった。 本研究では児童の特性として学年差を主として取り上げたが、同一学年内での個人差は大きい。ハザード知覚の個人差が子ども一人ひとりの交通行動にいかなる影響を与えているのかを、データを一層蓄積した上で検討すべきである。さらに、ハザード知覚能力を育てる効果的な教育や訓練を開発することも、本研究のような基礎研究での知見に基づいて進めるべきであろう。
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