本研究は全国母子生活支援施設協議会の協力を得て実施した、全国293施設の悉皆調査(回答213施設、2974世帯、回収率72.2%)をもとに、当時、その緊急性が明らかとなりつつあった、暴力からの母子の緊急避難の実態解明ならびに課題析出を企図したものである。研究は施設の受け入れ準備体制、全利用者に占める緊急避難ケースの比率、その特徴的課題、支援効果を三つの調査からの分析を試みているが、明らかとなった主な課題は以下の通りである。まず、準備体制では、夜間の安全管理、支援体制いずれもきわめて不十分な人員配置のなかでぎりぎりの支援がなされていること、安全管理(保護)とプライバシー確保は現実的に両立がむずかしい要素が多く、様々な利用理由を持つ利用者への高いソーシャルワーク能力が要求されていることである。 また、緊急避難を利用理由とする利用者は、その入所時点から調査時点までに、婚姻関係、住民票の異動、生活費の確保など多くの部分で施設的支援による安定を取り戻していることが明らかとなったが、例えば、偽名の使用など、母親だけでなく、子どもの権利という観点からみて、やや長期的な見守りや助言を要する問題があること、また、多くの母子が実家家族等の理解を得ることが困難で、母子ともキンシップネットワークが分断されてしまっているという状況にあることが明らかとなったこと、が重要である。 基本的には施設に対する、人的、物的な整備が多く望まれているだけでなく、緊急期の支援における基本的な援助技術コンセプトとの開発、再構築ありきではない、母・子それぞれのアドボカシーを基本視点とする家族ソーシャルワーク理念の確立が急務であることが明らかとなった。
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