研究概要 |
1.遊牧民の社会文化系の資料化: 佐藤は,ケニア北部のレンディーレとその近隣諸民族に関して,また,太田は,ケニア北西部のトゥルカナとその近隣諸民族に関して,放牧群の編成とその遊牧生態,ならびに遊牧移動に伴う民族間関係を中心的に資料整理をおこなった。その結果,1980年代の千魃と1990年代の大豪雨の影響を受けて,1970年代に比べて家畜頭数が減少傾向にあることを見いだした。さらに,治安の悪化によって,民族間の家畜の略奪が頻発したことも判明した。 家畜市場をみると,道路の整備されたトゥルカナランド方面が急激な市場経済化の波をかぶって,家畜の生産者価格が高騰している。逆に,インフラ整備の遅れているレンディーレランド方面では,家畜の市場取引が成立しにくい状態に陥っている。 従来,遊牧経済は,千魃による被害だけに着目されていたが,豪雨による被害の方が大きいのではないかと,新たな知見が得られた。 2.土地利用の行政処置: ケニアの遊牧圏には国立公園や動物保護区が多く設定されている。密猟と保護区の維持管理を担っているKWS(Kenya Wildlife Service)は,治安の維持と遊牧生活の安定化を視野に入れた新たな管理政策を展開しつつある。従来は,野生動物の保護を主目的にして一定地域を排他的に囲い込むことが行われていたが,近年は,家畜や牧民の利用を許しつつ,保護区を管理するという,住民の協力を重視した政策をとるようになってきた。 3.遊牧生態のGIS解析: 安仁屋と立入は,佐藤の発表したレンディーレのラクダ移動に関する資料に着目して,GISとりモートセンシングによる解析モデルを構築した。それは,降雨量,植生,水場,地形などをマッピングして,そこにラクダの遊動を位置づけて時系列的な解析を行うモデルである。この基本的解析モデルの構築によって,今後得られる新たな遊牧移動の解析が一段と進展するめどがえられた。
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