研究概要 |
1.遊牧民の社会文化系の資料化: 佐藤は,ケニア北部のレンディーレとその近隣諸民族に関して,また,太田は,ケニア北西部のトゥルカナとその近隣諸民族に関して,放牧群の編成とその遊牧生態,ならびに遊牧移動に伴う民族間関係の資料整理を継続して進めた。その結果1999年から2000年の乾燥期には,ラクダは低地平原で通年遊牧されていたのにたいして,小家畜(ヤギとヒツジ)とウシは,200キロメートルも離れた川辺林地域で遊牧されることが判明した。その地域は,近隣民族との境界領域である。この事実は,遊牧民の民族間関係が,遊牧移動によって流動化しうる可能性を示唆するものである。 家畜市場の継続調査によると,道路の整備されたトゥルカナランド方面が急激な市場経済化の波をかぶって,家畜の生産者価格が高騰している。逆に,インフラ整備の遅れているレンディーレランド方面では,家畜の市場取引が成立しにくい状態に陥っている。そして,このような対照的な傾向は依然として認められることが確認された。 2.土地利用の行政処置: ケニアの遊牧圏には国立公園や動物保護区が多く設定されている。従来は,野生動物の保護を主目的にして一定地域を排他的に囲い込むことが行われていたが,近年は,家畜や牧民の利用を許しつつ,保護区を管理するという,住民重視の政策がとられるようになってきた。その結果,有害動物の移送,フェンスの設置,在地住民の生活基盤の整備などが実施され始めている。 3.遊牧生態のGIS解析: 1987年8月〜1988年8月にケニア国畜産省らによって取られたレンディーレのラクダキャンプの移動と植生量分布の関連性を,NOAA/AVHRRの補正後,衛星画像を用いて調べた。その結果,マルサビッツ山の北西部は雨季と乾季の植生量の差が大きくて,この地域に雨季のみラクダキャンプが設置されていたこと,レンディーレランド中央部の低地は,雨季・乾季の植生量の差がさほど大きくなく,この地域にいくつかの大きな井戸があるために,乾季の遊動がおこなわれていたことなどが判明した。
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