本年度は東北北部の平安時代高地性集落の実態を把握することを中心に研究を行なった。本研究は東北北部の平安時代高地性集落と北海道のチャシとの間に関連があるかどうかをさぐることを目的としている。そのためにこれまでにすでに一定の資料を得ている高地性集落である岩手県岩手郡西根町暮坪遺跡と子飼沢山遺跡の調査データがどの程度に普遍性を有するかを確定する必要があり、今年は暮坪遺跡に近い暮坪II遺跡を発掘調査の対象とすることにした。 暮坪II遺跡は暮坪遺跡からは深い沢をはさんだ対岸の山上に存在し、前記の深い沢にそそぐ谷にへだてられた南と北の2地区に竪穴住居跡と思われるくぼみが確認できる。そのうち本年度は北地区で2軒、南地区で3軒の住居跡をえらび発掘調査を実施した。 その結果、北地区の住居跡はいづれも方形を呈し、壁ぎわにカマドを有する構造で、出土した土器の様式から10世紀末前後の年代のものであることを知り得た。南地区の住居跡も方形を呈するものであったがカマドはなく、遺物も出土しなかった。これらの点からすると南地区の住居跡は長期にわたる居住は行なわれなかった可能性が高い。ただし住居跡は10世紀初頭に降下した火山灰を切って構築されており、年代の点では北地区の住居跡と大きな差はないものと考えられる。 本年度に行なった暮坪II遺跡の調査によって、東北北部の高地性集落の多くは10世紀末を前後する時期に営まれたこと、長期にわたる生活を行なわなかったものも存在することが判明した。 なお本年度は西根町内の遺跡の分布調査も行ない標高500メートルの山上に位置する子飼沢山遺跡への登口近くに平安時代に営まれた可能性が高い集落跡を発見した。次年度にはこの遺跡の調査をも行なう予定で計画を進めている。
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