本年度の研究は次のような事項を中心に実施した。 1 東北北部の高地性集落のうち、比較的低いところに立地する遺跡の発掘調査を行なって、その実態を把握すること。 2 これまでに発掘調査を行なった遺跡のうちの子飼沢山遺跡について、遺跡全体の地形測量を実施すること。 上記1、2についての研究成果の概要は次のとおりである。 1については、春季に岩手県岩手郡西根町のスバット遺跡の発掘調査を実施した。スバット遺跡は、子飼沢山遺跡が所在する山地の麓の丘陵上に存在する。調査前の状況は、子飼沢山遺跡などの竪穴住居跡と同様のくぼみが散在していることから、くぼみの発掘調査を実施し、出土土器の様式などから子飼沢山遺跡のような高地の遺跡との年代差などを把握する予定であった。しかし発掘調査の結果ではスバット遺跡のくぼみは、子飼沢山遺跡などの竪穴住居跡とはちがい、きわめて深いものであり、カマドのような構造物も存在せず、土器などの遺物も残っていない特殊な遺構であり、くぼみの性格も年代も子飼沢山遺跡などとは大きく異なることが判明した。 そしてこの成果によって、表面観察のみによってくぼみを平安時代の竪穴住居跡ときめてしまうことはできないという新たな事実が浮かび上がることになり、今後の大きい研究テーマが浮上してきたのである。 2については子飼沢山遺跡の全体にわたる測量調査を実施し、遺跡の規模と構造を具体的に把握することができ、次年度に予定している平安時代高地性集落の総合的な考察の重要な資料を得ることができた。
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