研究課題/領域番号 |
11410119
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
玉泉 八州男 帝京大学, 文学部, 教授 (80016360)
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研究分担者 |
清水 徹郎 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (60235653)
住本 規子 明星大学, 人文学部, 教授 (10247174)
小沢 博 関西学院大学, 文学部, 教授 (70169291)
由井 哲哉 東京工業大学, 外国語センター, 助教授 (50251335)
篠崎 実 千葉大学, 文学部, 助教授 (40170881)
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キーワード | 余興の部分集合 / 近代的意匠と古い劇概念 / 不調和の調和が生む豊かさ / 変革の起爆剤としての劇場 / 腹話術的な働き / 作家の威信の確立と手稿文化 / 劇作家間の創造的影響関係 |
研究概要 |
エリザベス朝演劇は比較的早くから今日知られる形をとったと考えられがちだが、実はそうではない。二百年に及ぶその伝統の殆んどにおいて、教区を中心に行われる祝祭や事業のための余興の「部分集合」に留まっていた。道徳劇という一つの祖型が民衆レヴェルで登場するのが宗教改革以後、劇が軌道に乗った80年代からみれば僅か40年ほどしか前にすぎない。エリザベス朝演劇は、信じられない速さで急成長を遂げたことになる。それがさまざまな歪みを生む。近代的装いの下に、旧態依然たる劇概念をはじめ、夛くの遺物を残す。しかし、その不調和は結果的にはプラスに作用する。未曾有の豊饒なる劇世界は、この不調和の調和の産物であった。 演劇の隆昌化は、観客との良好な関係によっても築かれた。エリザベス朝演劇を支えた底辺は低い社会層が、マープリレート論争に明らかなように、彼らはピューリタンを「無礼講の王」とみなし、彼らと祝祭的連帯感を深めた。これが革命に結晶する社会変革の起爆剤になるが、劇場がそのための重要な場所を提供したことは疑いを容れない。 ジャーナリズムの確立する以前の社会において、現実政治への批判や意見の具申を行う腹話術的な働きも、当時の演劇の繁栄を考える際に無視できない側面であろう。80年代から進む女王の老齢化に合わせて、世嗣のなさや若い寵臣の横暴さを非難したり、ポルトガルの王位継承に擁してイギリスの反スペイン感情を巧みに説いた劇が人気を博した所以である。大衆はそこから世論形成の指針を与えられたに違いない。 当時はまた、作家概念の形成期でもあったが、詩人が自らのプレスティッジを高めたためにいぜん優位を保っていた手稿文化の幻影をいかに巧みに利用したか、シェイクスピアとマーロウの創造的影響関係についても、新たな知見が夛々得られた。
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