研究課題/領域番号 |
11410119
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
玉泉 八州男 帝京大学, 文学部, 教授 (80016360)
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研究分担者 |
篠崎 実 千葉大学, 文学部, 助教授 (40170881)
住本 規子 明星大学, 人文学部, 教授 (10247174)
小澤 博 関西学院大学, 文学部, 教授 (70169291)
清水 徹郎 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (60235653)
井出 新 フェリス女学院大学, 文学部, 助教授 (30193460)
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キーワード | 宗教改革 / 偶像破壊 / 北方の叛乱 / 擬似宗教としての演劇 / 旧教儀式の批判的再現 / 宮廷御用達 / 財政難 / 政治的干渉 |
研究概要 |
本年度の実績として特筆すべきは、1580年代のイギリスが置かれていた宗教的状況に演劇が隆昌化する基盤を探らんとする画期的な試みであった。 1580年代は、ヘンリー八世による宗教改革から50年、一旦カトリック信仰に戻ったメアリの治世から数えても20年が経過し、吹き荒れた偶像破壊の嵐もようやく収まったかに見えた時期であった。エリザベス朝最大の危機といえる北方の叛乱が鎮圧されてからも10年を過ぎている。再カトリック化阻止へ向けて万事怠りない手が打たれていた、といって過言ではなかろう。ところが、旧教との最後の接点が絶たれ、民心が国教会信仰で固まったと思われたこの時期、片田舎の教会で聖体が何者かに盗まれる事件が起こる。敬虔な新教徒は頭では偶像禁忌をよく理解しつつ、心情的には「触知しうる」宗教をいぜんとして求めている。演劇は一種の擬似宗教として、この間隙を埋めるべく躍りでてくるのである。演劇の隆昌化とともに再燃してくる偶像批判の怒号の中で演劇が発展しえたのは、偶像崇拝と両義的に取り組むことで、旧教の聖餐式や宗教儀式をそれが批判的に再現し得たからに他なるまい。宮廷余興との関係も、この時期の演劇の発展を辿る際に無視できない。民衆演劇は、逆説的ながら、宮廷御用達を存立の最後の切札とする芸能である。宮廷余興やその他の私的な演劇上演が順調に行われていたら、あれほどの隆昌化は困難だったと思われる。ところが、宮廷の財政難、それに私的上演グループの政治への干渉が幸いした。これもまた、通常の余興や私的上演が下火になる隘路を縫う形で、芸能の主役に躍り出るのが可能になったのである。80年代における演劇の発展には、このように宗教、政治両面における偶然が幸いしたことを、決して忘れるべきではなかろう。
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