研究概要 |
理論研究として,京都議定書における補完性に関するEU提案の分析を試みた.補完性とは,各国は温室効果ガスの国内削減を重視し,それでも不十分な場合においてのみ排出権取引などを含む京都メカニズムを使用するという考え方である.補完性を重視するEUは1999年6月,排出権取引などにおける取引数量の制約を設ける提案をした.つまり,買い手国も売り手国も上限を設け,この上限以上は京都メカニズムにたよらないという提案である.一見すると,この提案は,国内削減の努力を重視し,京都メカニズムに頼らずに温室効果ガスを減少せしめることに効果的であると思える.しかしながら,この提案においては,排出権の買い手には自由度を与えるものの,売り手には自由度を与えないことが明記されている.EU提案のこの点を明示的に取り込んだゲーム理論によるモデル分析をすると,EU提案により得をするのはEUを含む排出権の需要国であり,途上国を含む排出権の供給国は損をするという結果を得た.つまり,途上国の犠牲の上で,EU自身が得をするというとんでもない提案であることを明らかにしたのである. 実験研究においては,排出権取引における不遵守の問題(京都議定書の約束を果たさなかった場合に発生する問題)を排除した実験においては,相対取引とダブル・オークションのどちらを用いても高い効率性を観測した.価格の収束に関しては,ダブル・オークションのほうがベターであった.なお,実験における各国の利得は,競争均衡における利得と比較するとバラバラであるが,相対取引よりもダブル・オークションを用いた方場合,その度合いが小さくなる.いったん不遵守に対するペナルティおよび国内削減の意思決定を明示的に導入すると,相対取引とダブル・オークションともに効率性がかなり落ちたが,相対取引よりもダブル・オークションのほうの効率性が高意という結果を得た.
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