研究概要 |
国家問の排出権取引において,国が果たすべき責任先は2カ所ある.売買における相手国に対する責任と京都議定書に対する責任である.売り手国の状況に関わらず,売り手国が必ず買い手国に排出権を供給せねばならないのが「売り手責任制度」である.一方,売り手国の状況によっては買い手国が購入したうちの一部の排出権しか受け取れないのが「買い手責任制度」である.買い手責任制度についてはこれまでほとんど分析がなされていない.2つの責任先のどちらを先にするのかで,2つの制度の設計ができる.国が先だとする制度を「国先買い手責任制度」と呼び,議定書に対する責任が先だとする制度を「管理先買い手責任制度」と呼ぶことにしよう. 実験のデザインとして,(A)責任制度(売り手責任,国先買い手責任,管理先買い手責任)(B)取引方法(オークション,相対取引)(C)契約情報(開示,非開示)を用いた. まず,売り手責任のみの実験をみると,成功ケースと失敗ケースに分類される.「成功パターン」とは,初期に低めの価格で排出権が取引されたため,各国の削減投資が十分に進ままず,最後に不遵守を恐れ,期末に過剰に削減することになる.この効率性はまずまず高い.「失敗パターン」とは,初期に高めの価格で排出権が取引されるために過剰な削減投資がなされるものの価格がすぐには下がらない状態が続き,期末に価格が暴落する.この効率性は低い.次に,国先買い手責任が加わると,理論価格上昇ケースが新たに生じる.これは失敗ケースと全く逆の価格変動が起きたパターンである.さらに,管理先買い手責任の場合には,意図的破産ケースが発生する.これは,裏付けのない債券を大量に売却して収入を獲得し,計画的にディフォルトを起こそうと考える被験者が多く現れたケースである. 取引方法の効果,情報開示の効果は定かではない.
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