研究概要 |
ミクロデータを分析する際,異なった統計調査ないし業務記録の持つ情報を結合することにより,有効な分析ができる.複数のファイルに含まれる類似の世帯同士を結合する方法は統計的照合と呼ばれ,これまでにもアメリカを中心としていくつかの例があるが,その理論的根拠に関しては必ずしも共通の理解があるわけではない. 今年度の研究では,どのような状況であれば統計的照合によるファイルの結合によって有効な分析が可能となるかを理論的に論じ,さらに実際のデータに基づく実験によってその有効性を確認した. 具体的には総務庁統計局の家計調査と貯蓄動向調査を利用して,さまざまな手法による統計的照合の結果を正しいファイルである完全照合結果と比較することにより,どのような情報に基づく統計的マッチングが有効であるかを確認することができた.特に,これまでの研究において,統計的マッチングが成功するための基本的な性質とされてきた「マッチングキー変数が与えられたときの異なるファイルの変数間の条件つき独立性」の持つ意味と限界とを明らかにした. 照合の精度を比較するため,完全照合ファイルについていくつかの経済モデルを分析したが,その中で「子どもコストの推計」を行なった.子どもコストは,教育費など直接のコストだけではなく,財や時間の消費の変化を含めたものとして,さらにはライフサイクルを見通しての長期的なものとしてもとらえるべきであり,また社会的負担と給付,私的負担と便益の変化を勘案して,子ども需要の推計を行うことも必要であるが,今年度はエンゲル関数を用いた短期的な子どもコストの推計を中心に実施した.
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