研究概要 |
イングランド北部の製鉄工業都市、ミドルズブロウ(Middlesbrough)における19世紀後半の人口移動・労働力市場の特質と都市形成の統計的・実証的分析を通じて、都市化と工業化が提起する諸問題の起源を探ることがこの研究の課題であった。このため、先ず、1851.61.71年センサス個票を史料として、人口移動の実態を解明した。また、市制・財政構造の特異性、工業立地と資源賦与、大量の人口移入がもたらす住宅不足、労働条件・居住環境の悪化による労働災害・都市固有の疾病の発生、死亡率の上昇、その他都市基盤の未整備がもたらす軋櫟、移入者と都市住民の社会的摩擦・犯罪等を具体的に明らかにした。人口移動の分析に関しては、 1.この種作業に習熟し、信頼できるイギリス人研究補助者(The University of Teesside博士課程在学中)に、1851,1861,1871年のセンサス個票のインプット(総計65,760人)を依頼した。 2.インプットされた個票をコード化し、名寄せする作業を、現在最も信頼しうるセンサス個票連結分析法のプログラムを開発したKingston大学に依頼し、1851-61年、1861-71年の連結結果を入手した。 3.1851-1861年のセンサス個票連結結果を分析し、以下のような知見を得た。 (1)製鉄業が本格化する1851〜1861年に、この都市には大量の人口が移入し、1861及び1871年の人口年齢構成・性比を極めて特異なものにした。こうした人口構成・労働力の特質は、少なくとも1881年まで続いた。 (2)2種類の労働市場(遠距離から流入する熟練工と近隣から調達される未熟練工とアイルランド人未熟練労働者によって構成される)が存在した。 市制・財政構造・都市犯罪については、記述史料から興味深い事実を検出し、急激な都市化・工業化に伴う環境の悪化については、篤志総合病院症例記録の分析から、労働災害、都市固有の疾病・罹病の実態を検出した。
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