研究概要 |
完備な正規代数多様体Xとその上の可逆層Lに対して,次のような効果的非消滅予想を考えた.「X上のR-因子Bがあって,対(X,B)はKLTであるとし,Lはネフで,さらにL-(K+B)はネフかつ巨大であるとする.このとき,Lの大域切断のなすベクトル空間Vは0ではない.」この予想の背景には次のような事実がある.消滅定理によれば,Lの高次のコホモロジー群はすべて消えるので,Vの次元はトポロジカルな量であるところのLのオイラー標数と一致する.従って,Vという代数幾何学的な量は,本来は非線形的で不安定なはずであるが,実はその次元は安定で自然であることがわかる.また,固定点自由化定理によれば,十分大きな整数mに対しては,mLの完備線形系は固定点を持たないことが知られている.特に,mLの大域切断のなすベクトル空間は0にはならない.さらに,以前証明した対数的標準因子の関係式を具体的な場合に応用しようとすると,効果的非消滅予想が重要になる.例えば,ファノ多様体の構造の研究の重要な方法として梯子を使うものがあるが,梯子の存在をいうためには,対数的標準因子の関係式の右辺における効果的非消滅予想が鍵になる.さて,一般的な場合にはまだこの予想は証明されていないが,いくつかの肯定的な結果を得た.すなわち,Lの数値的小平次元が2以下の場合には効果的非消滅予想が証明できた.また,Xが3次元の極小多様体や,4次元ファノ多様体の場合にも,効果的非消滅予想が部分的に証明できた.これらの結果の証明の過程で,以前に証明した代数的ファイバー空間における半正値性定理を,対数的な場合に拡張して,これを用いた.対数的半正値性定理にはまだ多くの応用が期待できる.
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