研究概要 |
量子計算の数理モデルに関する情報数理解析学的研究を行った結果,次の成果を得た. 1.保存法則が基本量子論理素子を物理的に実現するにあたって障害になることが示された. 2.もし計算基底がスピンの成分で表現され,物理的実現が角運動量保存法則をみたすならば,制御否定素子を物理的実現可能なユニタリ作用素で制御否定素子を実行したり,誤り確率1/16以内で模倣することはできない. 3.この障害は量子論理素子が実行する論理演算に依存していて,たとえば,スワップ素子に対してはそのような障害は現れない. 4.一般には,サイズがn以下の物理的に実現可能な任意の量子論理素子は,誤り確率1/(4n(5E)162)以内で制御否定論理素子を実行することはできない.ここで,サイズとは計算量子ビットと補助量子ビットの総計として定義される. 5.以上は補助系がフェルミオンの場合であるが,ボゾンの場合にもサイズを平均光子数と定義すれば,同様の関係が成立する. 6.また,任意の万能素子の組に対しても,その中に誤り確率0(1/n(5E)162)で模倣できない基本素子が含まれることを示すことができ,このことから,制御否定素子を含まない適切な万能素子の組を利用することによって,この障害を回避することはできないことが得られる. 7.量子誤り訂正理論における閾値定理は,基本素子の誤り確率がある閾値以内にあれば,任意の大きさの量子計算が実行化のであることを示しているが,現状では,この閾値は10(5E)16-5程度と見積もられている.このことと上の障害を合わせると,制御否定素子は数学的には2量子ビット上のユニタリ変換であるが,実際には,最低100量子ビット程度のユニタリ変換としてしか実現できないことになる. 8.このような障害を回避するために,計算基底は加法的保存量と交換可能なものを選ぶ必要があることが結論され,このような新しい計算基底に関する誤り訂正理論の確立が求められる.
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