「核物質中でハドロン(中間子等)の質量がどのように変化するか」は、現在の原子核物理の中心的な課題の一つである。これを実験的に研究するため、高エネルギー重イオン衝突で高温核内に中間子を作り、そのレプトン対崩壊から中間子質量を再構成する試みが世界各地で始まろうとしている。本研究はこれとは全く異なる発想、すなわち原子核中に中間子を「無反跳」で生成し、その生成スペクトルの解析から原子核中の中間子の質量変化を決定することを目指したものである。 そのために我々はドイツGSI研究所において核内にη及びωを無反跳で生成する実験を企画し、実験審査委員会で高い評価を得た(実験詳細はEuropean Physical Journalに発表)。 今年度は実験装置の設計と試作を行った。この実験の原理は我々が以前行ったπ中間子原子実験と同様であるが、重陽子のエネルギーが600MeVから3GeVに上がるため、焦点面に飛来するバックグラウンド粒子(主として重陽子分解で生じる陽子)の増大が予想される。 種々の検討の結果、ヘリウム3にのみ感度を有し、陽子に不感な特殊なチェレンコフカウンターを用いる方式が最適であるとの結論を得た。詳細なモンテカルロ・シミュレーションに基づいてカウンターを試作中である。
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