研究概要 |
格子の整合性がよい金属単結晶の清浄表面を基板として,高品質の酸化物単結晶薄膜を作製してきた。それはRu(0001)上のα-Al_2O_3,Ni(111)上のβ-SiO_2である。そして5〜40Åの任意の厚さの高品質の単結晶膜の作製に成功している。そしてその構造と電子物性を研究してきた。 走査トンネル分光法(STS)を用いた測定から,酸化膜厚が導くなるにつれて酸化膜のバンドギャップが狭くなるという実験結果を得た。これは量子サイズ効果とは逆の結果で,常識に反しているので,他の方法で確認する必要がある。そこで入射電子線を単色化した角度分解型電子エネルギー損失分光計を製作し,α-Al_2O_3/Ru(0001)について,電子エネルギー損失スペクトルの酸化膜厚依存性を測定したこ。そしてSTSでの測定結果が確認でき,膜厚が35Åになるとバルクのバンドギャップに近い値になる。このバンドギャップが狭くなる現象は電子系の多体効果で説明できるであろう。またこれらの研究をさらに発展させるため,研究目的に合致した超高真空仕様のSTM/STS装置を製作した。 一方酸化膜厚40Åのβ-SiO_2/Ni(111)について,高輝度の放射光を用いた斜入射X線回折(GIXD)の測定をしたこ。(20)と(101)ロッドの強度分布曲線から,SiO_2膜はNi(111)と格子整合していること,膜厚30Åのβ相の単結晶水晶であることが判明した。 さらに回転対陰極で高輝度化したX線回折計を用いた測定から,界面に膜厚10Åのニッケルシリサイドの多結晶のバッファー層が存在することが判明した。しかもNi(111)基板に対してβ-SiO_2を無理なくつなげる構造から酸化膜が30°回転している。これは低速電子回折(LEED)の測定とも一致するが、この実験結果は単結晶膜の生成過程を考える上で重要な知見である。
|