本研究は、不可逆光誘起現象の過渡的振る舞いを明らかにできるシングルショットフェムト秒分光法を開発し、それを用いて様々な固体中の不可逆光誘起現象の解明を行うものである。今年度は、1)当大学機器分析センターに配置されたフェムト秒レーザの整備およびシングルショットフェムト秒分光法の光学系・検出器系の立ち上げを行った。また不可逆光誘起現象としてフォトクロミズムを取り上げることとし、フォトクロミズムを示すジニトロベンジルピリジン(DNBP)、逆フォトクロミズムを示すスピロピラン誘導体の基礎的な光構造変化を明らかにしておくことにした。具体的には、2)ナノ秒過渡吸収分光より両物質の反応中間生成物の同定、3)定常光を用いた吸収スペクトル測定よりDNBP結晶の光構造変化の解明を行った。 1)においては、レーザシステム・測定系の整備により、微弱で超高速で生じるベータカロチンの蛍光を時間分解能200フェムト秒で捉えることに成功した。また、2次元CCD検出器、分光器、光学部品を組み合わせ、シングルショットフェムト秒過渡吸収分光法を立ち上げ中である。2)においては、ナノ秒過渡吸収スペクトル測定から、DNBP、スピロピラン誘導体の過渡的中間体の存在を明らかにした。3)においては、DNBP結晶の光構造変化が分子のそれとは異なることを見いだし、この結晶がシングルショットフェムト秒分光法の格好の対象物質であることを示した。 来年度は、立ち上げたシングルショットフェムト秒過渡吸収分光法を評価することに重点を置き、その後上記フォトクロミック化合物の光構造変化の過渡現象をシングルショットフェムト秒過渡吸収分光法を用いて明らかにしていく予定である。
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