研究概要 |
本研究は金属の量子点接触における量子化コンダクタンスの発現と金属の硬さとの関係を実験的に解明することを目的としている.本年度は硬さの異なる遷移金属接点を対象として,量子コンダクタンスの発現を調べる研究を行った.本研究では磁性の影響を避けるために,非磁性のRu,Rh,Pd,Ir,Ptの各金属について,量子点接触の形成とコンダクタンス測定を室温で行った.実験にはマクロ接点を利用する方法を使用した.この方法では,量子接点は接点の破断の際に生じる接触部分のネッキングによって形成され,コンダクタンスは過渡コンダクタンスとして測定される.得られた主な結果は以下の通りである. 1.測定を行った遷移金属接点の場合には,過渡コンダクタンスに短いプラトーが観測される.しかしプラトーの位置は一定せず,ヒストグラムには量子化コンダクタンスのピークは現れない. 2.しかし金属によって,コンダクタンスの性質はやや異なっている.比較的軟らかいPt接点の場合には,高バイアスでヒストグラムに明確なピークが現れるが,硬いIr接点のヒストグラムには全くピーク構造が見られない.一方中間的な硬さのRu,Rhではヒストグラムに鈍いピークが観測される.このように量子化コンダクタンスの発現と金属の硬さには相関が認められる. 3.過渡コンダクタンスがプラトーを示すときには,接合は単原子接合に近い状態にあると考えられる.今回測定を行った金属接点ではこのプラトーの値がばらつく現象が観測されたが,この原因としては,遷移金属の単原子接合のコンダクタンスが原子配置によって敏感に変化すること,或いは接合への不純物原子の付着による電子散乱の影響,等が考えられる.
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