研究概要 |
量子ホール効果における量子化プラトーは,いわゆる無損失状態のブレイクダウン,即ち対角抵抗の急激な増加が観測されるような電流の増加に対しても,精度が低い測定では一定に保たれるように観測される.けれども,われわれが行っているppmレベルの高精度測定では,無損失状態のブレイクダウン電流よりも小さい電流でホール抵抗は量子化値から急峻な変化を示す.この現象を量子化ホール抵抗の電流による崩壊と呼ぶ.本研究はこの現象を実験的に解明することを目的として計画され,本年度は量子化ホール抵抗崩壊電場の温度依存性を測定した.GaAs/AlGaAsへテロ接合2次元電子系で測定部幅が60μmと35μmのバタフライ型ホールバーを用い,量子化プラトー中心磁場における崩壊現象はホール電場に依存することを明らかにした.ランダウ準位充填率v=4(磁束密度は60μm試料に対して5.0T,35μm試料に対して5.7T)で崩壊ホール電場F_<HC>の温度依存性を測定し,温度上昇に対してF_<HC>が減少する結果を得た.われわれが提案した無損失の量子ホール相と損失相がホールバーの電流方向に交代していて,崩壊ホール電場で量子ホール相が消失する模型(S.Kawaji et al.:Physica B56(1998)256)が成立すると考えて,二つの電子相の境界をF_<HC>(T)=F_0{1-(T/T_0)^n}と表すとき,60μm試料に対する0.8Kから5Kの温度領域で測定した結果から,F_0〜9kV/m,T_0〜7.5K,n〜2が導かれた.
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