強相関電子系物質であるマンガン酸化物は、遷移金属であるマンガンイオンが持つd電子の内部自由度である電荷、軌道、スピンに加えて、格子系との強い相互作用により、金属-絶縁体転移、巨大磁気抵抗効果や電荷・軌道秩序構造などの特異な物理的特性を示す。最近、マンガン酸化物で見出された電子の局在性に起因した電荷秩序構造と電子の遍歴性に起因した強磁性金属状態の共存状態(相分離状態)が見出され、巨大磁気抵抗効果や金属-絶縁体転移と強く相関していることが明らかになってきている。本研究では、マンガン酸化物での相分離状態及び電荷・軌道秩序構造に関するナノ構造について透過型電子顕微鏡法およびローレンツ電子顕微鏡法を用いて研究を行った。以下本研究で得られた主な成果成果について示す。 1.La_<1-x>Ca_xMnO_3の電荷/軌道秩序状態の2相共存状態や相転移過程を初めて観察し、その構造の初期成長段階でpaired Jahn-Teller stripes(PJTS)が基本構造単位として重要な役割を果たすことを見出した。 2.マンガン酸化物のMnサイトの一部をCrイオンで置換することによって得られるNd_<0.5>Ca_<0.5>Mn_<1-y>C_yO_3において、Crで2%置換することにより絶縁体-金属転移が誘発されることを見出すとともに、ローレンツ電子顕微鏡観察を行うことにより数十nmサイズの強磁性領域と電荷・秩序構造が共存する電子相分離状態の直接観察に成功し、電子相分離の実態をはじめて実空間像として示した。 3.(La_<5/8-x>Pr_x)Ca_<3/8>MnO_3での相分離状態における強磁性磁区構造観察を行い、ミクロンサイズで強磁性金属状態と電荷秩序構造が共存している電子相分離状態の存在を明らかにした。 4.スピネル型構造をもつAlV_2O_4において、約で700K 正方晶構造から菱面体構造への相転移が電荷秩序構造の形成を伴っていることを明らかにした。また、この電荷秩序構造は、[111]方向に2倍周期を持つ長周期構造であることを見出した。
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