研究概要 |
表面スピン相関の新しい観測と制御の手段として我々が独自の着想で開発してきた,基底状態でスピン偏極したCs原子線を用いた表面散乱法(スピン偏極原子線散乱法と呼ぶ)の研究において,引き続き観測系の開発を進めた.本研究では,スピン選択的な共鳴電荷交換を通して,表面第一原子層および吸着原子のスピン相関を解明することを目的とする.そのためには,入射セシウム原子線の散乱後の(1)中性原子生存確率,正負イオン化効率のエネルギー依存性の測定,および(2)スピン減偏極度の定量的な測定が不可欠である. (1)については,MCPによるCs原子およびイオンの検出効率の基礎実験によって,静電分離器で偏向したイオンビームの検出強度がMCP受感面の位置によって数倍変動することがわかった.これを解決するため,超高真空中における回転機構を備えた位置敏感型MCP観測装置を新規開発した.現在,性能確認試験を実施中である.(2)に関しては,光イオン化分光に使用していた既存のHe-Cdレーザーに不具合が生じたため,設備備品費でArガスレーザーシステムを導入し,新システムでの光イオン化分光を確認した.これら主たる観測装置の開発に当初予定より時間と経費を注ぐこととなったが,性能も当初計画より向上した.最終年度を目前にして全系を連結した散乱実験がいよいよ始まる予定である.
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