研究概要 |
表面スピン相関の新しい観測と制御の手段として我々が独自の着想で開発してきた,基底状態でスピン偏極したCs原子線を用いた表面散乱法(スピン偏極原子線散乱法と呼ぶ)の研究において,最終年度にあたる今年は,観測系の開発をほぼ完了し散乱実験のためのシステム構築を進めている. 本研究の目的は,スピン選択的な共鳴電荷交換を通して,表面第一原子層および吸着原子のスピン相関を解明することである.散乱後の原子の電子状態を測定するための検出手段として,回転機構を備えた位置敏感型MCP観測装置を完成させた.プローブ原子(Cs)のMCPによる検出効率を,90-3500eVの広い範囲で測定した.またとスピン状態を測定する手段として,光イオン化分光法の信号/ノイズ比を2桁減少し,計測感度を飛躍的に向上させた.全体の計画は,老朽化した排気システムのトラブル等からの復旧に予定以上の時間を費やしてしまったためにやや遅れているが,入射セシウム原子線の散乱後の(1)中性原子生存確率,正負イオン化効率のエネルギー依存性の測定,および(2)スピン減偏極度の定量的な測定が可能となった.散乱実験の要素開発はほぼ完了したので,引き続き全系のアセンブリに取り組んでいる. 本研究をナノ領域の表面スピン計測につなげるために,光近接場と表面の相互作用における疑角運動量の保存の理論研究を同時に進行し,実験と比較可能な定量的な予測を得た.また,本研究の標的表面のひとつとして,光スピン注入半導体の実験研究でも成果を得た.
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