研究概要 |
1.強いスピンフラストレーションを持つ系としてパイロクロア型Mo酸化物R_2Mo_2O_7(RはYまたは希土類Nd,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho)を取り上げ,金属-絶縁体転移近傍にあるこれらの系の振る舞いについて,磁化,交流磁化率,電気抵抗,比熱の測定を行った。 2.本研究課題の昨年度の経費で購入した赤外線加熱単結晶育成装置を用いて,取り上げたすべての系について良質の単結晶を得ることができた。これらの試料を用いることにより,希土類元素のイオン半径の変化に伴って系の振る舞いが系統的に変化することを明瞭に示した。 3.イオン半径の小さなR=Tb,Dy,HoおよびR=Yの系はT_G=28〜20Kでスピングラス転移を示す。また,電気抵抗はρ=ρ_0exp(E_g/kT)に従い熱活性型の半導体的振る舞いを示す。活性化エネルギーE_gはイオン半径の増大とともに小さくなり,TbとGdに対応する値の間で零に漸近する。 4.イオン半径の大きなR=Nd,Smの系は,それぞれ転移温度T_C=98K,83Kの強磁性を示した。電気抵抗は焼結体試料で見られた低温での立ち上がりは無く,測定した最低温(10K)まで金属的であった。また,焼結体試料では見られなかった転移点での比熱の異常も明瞭に観測された。 5.イオン半径の中間に位置するR=Gdの系は,T_C=50Kの強磁性的振る舞いを示すが,転移点での磁化の立ち上がりは鋭くない。比熱の異常も明瞭で無く,残留エントへロピーが見られる。電気抵抗は低温で金属的であるが,室温付近で飽和する傾向を示す。これらの事実は,この系がモット転移近傍にあり,Moサイトの強磁性秩序が不完全であることによるものと思われる。 6.現在R_2Mo_2O_7系の金属強磁性からスピングラス様半導体への転移の詳細を明らかにするために,置換型(Sm_<1-x>Tb_x)_2Mo_2O_7の単結晶試料を作製し,研究を行っている。
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