本研究の目的は、半導体技術と異なった微細構造作成の一アプローチとしてアルミニウム膜の陽極酸化により自己組織形成される微小多孔質アルミナ膜を用い、新たなメゾスコピック物性を研究することにあった。今回主に以下の3点の結果を得た。 1.単一接合にニッケル量子細線を直結した系で、ニッケル細線中の凝一次元電子間相互作用に起因した高インピーダンス環境にクーロンブロッケードは依存し、細線中の電子散乱が引き起こす位相揺らぎに非常に敏感である事を新しく発見した。また銅・半導体細線で同一構造を作成したところ定性的にはほぼ同じクーロンブロッケードが観察された。さらにニッケル細線系でのみ、例えば細線長手方向に磁場印加した場合、高磁場までヒステリシスを持つ正の磁気抵抗、零磁場付近での1%程度の極大点の存在、という特有の磁気抵抗特性を発見した。過去の報告例と比較し、弱局在が存在する強磁性体細線での磁壁によるその破壊、で解釈できる可能性が有り、クーロンブロッケードとの相関を含めて詳細に調査中である。 2.多層カーポンナノチューブの細孔中への成長に成功し単一接合に直結した系でクーロンブロッケードの観察に初めて成功した。これは電子波の位相干渉により形成された外部高インピーダンス環境でもクーロンブロッケードが生じる可能性を示唆するもので、この現象を記述する位相相関理論との比較の上でいくつかの興味深い議論を提示できた。 3.細線間の距離を8nm以下程度に小さくすると細線間にトンネル電流が流れる事を確認し、高密度蜂の巣状の細線アレイでの電子輸送特性を調べた。その結果、階段状の電流一電圧特性が存在し、階段出現(コンダクタンスピーク)電圧が印加磁場に対してほぼ周期的に振動する事を発見した。従来このような報告例は無く、温度特性、コンダクタンス絶対値、等の測定からもこれらは従来の理論では解釈し難いため、現在詳細を調査中である。
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