研究概要 |
本研究の目的は微小多孔質アルミナ膜を用いて独創的なナノ構造を形成し、従来の半導体微細構造では見出し難かった量子・メゾスコピック現象を観察する事にあった。今年度を中心に当研究費配布期間に主に以下の成果を得た。1.ナノ細孔中に金属・カーボンを成長する事で、細孔底に自動形成されている単一ナノトンネルバリアとの結合系が容易に実現できる点に着目。単一ナノトンネル接合/高抵抗量子細線結合系で、単電子トンネリングの典型例であるクーロンブロッケードが起き得る可能性を指摘。我々は単一接合に、アルトシュラーの理論に従う一次元電子間相互作用に起因した高抵抗を持つニッケル量子細線、電子波の位相干渉の結果生じ、エネルギー散逸を伴わない局在現象に依存して高抵抗を持つ多層カーボンナノチューブ、を各々直結した両系で異なるクーロンブロッケードが生じる可能性を発見した。前者では外部電磁場環境の位相揺らぎエネルギーと帯電エネルギーの競合が重要である事を、後者では外部でのエネルギー散逸はクーロンブロッケードを作るが、位相相関理論で指摘されるような抵抗量子より大きい外部環境インピーダンスは不必要であるかもしれない事を、初めて指摘した。またこのトンネリングに際した外部環境でのエネルギー散逸の実験が巨視的量子トンネリング(MQT)の観点からも重要である事を指摘した。2.ナノ細孔中に多層カーボンナノチューブを気層成長で規則形成する事に成功。多層カーボンナノチューブにおける電子波位相干渉効果が、コンタクト層としてチューブ先端にデポした金属のわずか5%程度の拡散に極めて敏感であり、軽いコンタクト材料(C,Al)系では弱局在が、重い材料(Au,Pt)系ではスピン・軌道相互作用により反局在が、各々AAS振動中に出現する事を初めて見出した。3.ニッケル量子細線アレイで磁気抵抗の跳びを確認し、これが磁壁のMQTに基づいている可能性を指摘し、細線中に存在し得る弱局在がこのMQTによっても破壊されない可能性を初めて指摘した。またこのMQTの出現がトンネルバリア層の有無に相関を持つ可能性も現在確認中である。4.その他、蜂の巣状の量子細線(ニッケル・半導体)間の電子輸送特性において磁場に依存した周期的なコンダクタンス振動が見られる事、ニッケル細線アレイサンプルの保持力が細線直径に大きく依存する事、等を発見し調査中である。 今後、特に強磁性体量子細線系では、MQTの人工的制御、及び強磁性と電子波干渉現象の共存の可能性に、また、カーボンナノチューブ系ではチューブ内への他物質ドーピングによる現象、特に超伝導の発現の可能性に、注力してゆく予定である、
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