(DMe-DCNQI)_2Cuの特異な金属-絶縁体転移と分子内振動

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11440118
• 研究機関: 東邦大学
• 研究代表者: 西尾 豊 東邦大学, 理学部, 助教授 (20172629)
• 研究分担者: 梶田 晃示 東邦大学, 理学部, 教授 (50011739)
• キーワード: 有機有機伝導体 / メチル基 / 金属-絶縁体転移 / 相転移 / 比熱 / 重水素化 / トンネル / 相転移

研究概要

DMe-DCNQI-Cu系はπ電子が形作る1次元性をCuの3d電子が混成して低次元不安定性を回避して、有機伝導体のなかでも有数の良導体を形成している。DCNQI分子の外側にあって1次元軸方向の距離を決定しているメチル基のサイズが重水素化の程度により段階的に縮小し、低次元不安定性が強められ絶縁化する。温度の低下に伴って金属相から絶縁体相へ、さらに温度を下げると再び金属相へ戻るリエントラントな転移をみせる。本研究の目的はメチル基を重水素化することにより生まれる新しい自由度がもたらす異常比熱およびリエントラントな金属-絶縁体転移の機構を比熱をはじめとする熱測定を用いて熱力学的に解明することである。
温度上昇、下降過程で観測される大きなヒステリシスを利用して同一条件下で両相の比熱および転移で観測される潜熱を検討した結果、絶縁体相のCu^<2+>状態のスピンと金属相のフェルミ面近傍の自由電子の自由度の競合によりこのようなリエントラント転移が生まれることを解明した。
重水素化することによりメチル基の水素の1つを重水素化したCH_2Dを含む系で巨大なSchottky比熱の存在と、2つ重水素化CHD_2が近接して存在する系では異常比熱の存在を発見し、この起源がメチル基中の重水素の配置の自由度であり、メチル基中には3つの水素、重水素の安定点が存在し、さらに重水素がDCNQI分子の面内に存在する状態が基底状態であることが明らかとなった。CHD_2濃度が高くなるにつれ、隣の重水素の位置がCHD_2中重水素の配列を決定する秩序-無秩序転移が起こっていることが明らかとなった。
DCNQI-Cu系ではメチル基中の水素、重水素のトンネルによる回転運動が、このような大きな比熱異常引き起こし、金属-絶縁体転移の大きな影響をもたらすなど有機伝導体にもっとも特徴的な分子内振動が金属-絶縁体転移との連携の可能性を高い。

研究成果

• [文献書誌] Yutaka Nishio: "Anomalous Specific Heat of (DMe-DCNQI-d_2[1,1;0]_<I-x> d_4[2,2;0]_x)_2 Cu-System"Synthetic Metals. 120. 107 (2001)
• [文献書誌] Takako Konoike: "Low Temperature Electric Nature of τ-phase Conductor"Synthetic Metals. 120. -801 (2001)
• [文献書誌] Yutaka Nishio: "Schottky Specific Heat due to the Tunneling Rotation of Methyl Groups in Deuterated (DMe-DCNQI)_2Cu-system"Journal of the Physical Society of Japan. (in press).
• [文献書誌] Yutaka Nishio: "Methyl Rotation and Metal-Insulator Transitions of Deuterated (DMe-DCNQI)_2Cu system"Mol. Cryst. Liq. Cryst.. (in press).
• [文献書誌] Yutaka Nishio: "Mysterious Thermal Properties of τ-(EDO-S,S-DMEDT-TTF)_2 (AuBr_2)_<1+y> and τ-(P-S,S-DMEDT-TTF)_2 (AuBr_2)_<1+y> (y 0.75)"Mol. Cry. Liq. Cry.. (in press).
• [文献書誌] Yutaka Nishio: "Deuterium Freedom and M-ITransition in DCNQI-Cu System"Synthetic Metals. (in press).
• [文献書誌] 西尾 豊: "個体物理"アグネ技術センター. 11 (2001)