DMe-DCNQI-Cu系はDCNQ1分子のπ電子とCuの3d電子が混成して有機伝導体のなかでも有数の良導体を形成している。π電子の1次元性を3d電子がのり働きして低次元不安定性を回避している。DCNQ1分子の外側にあってC軸の積層方向の距離を決定しているメチル基のサイズが重水素化により縮めば低次元不安定性が顔をみせる。本研究の目的はメチル基を重水素化することにより生まれる新しい自由度を熱力学的に検討するため、比熱を子細に測定し、その機構を明らかにするとともに、これらがリエントラントな金属-絶縁体転移に及ぼす影響を総合的に解明することである。この過程でメチル基の水素の1つを重水素化したCH_2Dを含む系では巨大なSchottky比熱を発見し、2つ重水素化CHD_2が近接して存在する系では異常比熱が見られた。 本年度はCHD_2の濃度を変化させながら、CHD_2間隔に依存してどのように比熱が変化するのか検討した。この目的のためCH_3とCHD_2の混晶系、CH_2DとCHD_2の混晶を用意して系統的に検討した。その結果CH_2D系ではその間の相互作用が弱く重水素の安定な位置は分子内の電場で決定していることが、またCHD_2系でも濃度が薄い間は分子内でエネルギーレベルが決定しているが、CHD_2濃度が高くなるにつれ、その間の相互作用が大きくなり隣の重水素の位置がCHD_2中重水素の配列を決定する秩序-無秩序転移が起こっていることが明らかとなった。 また前者の混晶の実験よりCHD_2濃度を増加させリエントラント転移を制御させ、異常比熱と転移の関係を調べた。その結果CHD_2が低濃度領域ではSchottky型の温度依存性を示すが、高濃度に移行すると、これからはずれ鋭いピークが出現する。転移による比熱のヒステリシスが観測される領域では異常比熱が転移により影響を受け大きく歪むことが観測された。
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