散逸大自由度系の典型例として、2つの実験系を取り上げ実験と解析を行った。 その一つは、物理システムにおける最も複雑な現象の典型例である発達熱乱流系の実験であり、他の一つは生物の細胞集団における形態と情報の組織化の典型例である培養神経ネットワークの実験である。それぞれについて以下のような成果を得た。 第一の発達した熱乱流系においては、Rayleigh-Benard対流系を用いて制御パラメータであるレーリー数が極めて高い状態を実現し、究極の熱乱流状態の存在を探求した。従来、極めて高いレーリー数の乱流状態においては、温度境界層と粘性境界層の位置が逆転し、系全体の熱流(ヌッセルト数)がレーリー数の1/2乗に比例する究極状態の存在が予想されていた。本研究では、プラントル数が小さい水銀を用いて実験を行い、レーリー数10^5〜10^<11>、レイノルズ数5x10^5(低プラントル数における世界記録)のを作りだし、2つの境界層の逆転状態を初めて見出した。また、逆転にもかかわらず熱流の転移は起こらず、従来の予測は誤りであるとの仮説を提案した。さらに、境界層の空間構造、各種統計量を詳細に測定し、2つの境界層の厚さの比率は常に一定でありレーリー数の-2/7乗に漸近して減少していく傾向があること、各種統計量の空間プロファイルは境界層厚さでスケールすると不変な形になることを明らかにした。 また、第2の実験としてラット胎児の大脳皮質細胞の分散培養を行い、ガラス基板上で神経ネットワークを形成させ、その上に生ずる同期発火現象やCa^<2+>ウェーブ現象を光学測定により観測した。さらに神経に特異的なタンパクを抗体染色することで、神経細胞とその間のデンドライトによる結合状態、グリア細胞の特定などを行い、ネットワークの空間構造と詳細な比較を行った。視野内の全ての細胞のCa^<2+>濃度の時間変化を長時間にわたって測定し、同期発火を周期発火、非周期発火、伝搬型に分類するとともに、同期クラスターに含まるれ細胞を同定する新しい解析方法として、相関行列、主成分分析、クラスター分析、独立成分解析などを用いることを提案してその有効性を示した。また、神経・神経の相関、神経・グリアの相関、グリア・グリアの相関分布などを初めて明らかにした。抗体染色により、ネットワーク構造の形成過程を定量的に特徴づけた。
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