内殻励起分子の核の運動と解離ダイナミクス

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11440120
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 上田 潔 東北大学, 科学計測研究所, 助教授 (50151791)
• キーワード: 内殻励起 / オージェ電子分光 / 多重同時計測 / イオン収量 / 水分子 / 二酸化炭素分子 / 高輝度放射光

研究概要

高輝度放射光実験施設SPring-8で供給される非常に狭いバンドパスの単色軟X線を用いて、内殻励起状態の核の運動を調べるためのイオン収量スペクトルおよび共鳴オージェ電子スペクトルを世界最高の分解能で観測する手法を確立した(Ueda et al.Nucl.Instr.Methods A,in press;Shimizu et al.J.Electr.Spectrosc.Relat.Phenom.,in press)。また、分光と解離ダイナミクスを調べるための多重イオン同時計測運動量イメージング法を確立した(投稿準備中)。これらの手法を用いてSPring-8における共同利用実験として以下の研究を行なった。
(1)水分子H_2OのO1s内殻励起状態の振動分光に始めて成功し、Rydberg状態における変角振動を明らかにした(Okada et al.Chem.Phys.Lett.326(2000)314)。また、水分子H_2OのO1s電子を2b_2軌道に励起した状態は解離的であるといわれていたが、この内殻励起状態にもポテンシャルミニマムが存在し、内殻励起に伴い変角振動と伸縮振動が励起されること、内殻励起状態に蓄えられた振動エネルギーの増加に比例してオージェ終状態からのH_2^+分子イオン生成が増大することを見出した(Hiraya et al.Phys.Rev.A,in press)。
(2)二酸化炭素分子CO_2のO1s電子を最低非占有分子軌道2π_uに励起すると共鳴オージェ電子放出後にイオン性解離を起こすが、解離イオンの角分布を測定し、内殻励起状態が曲がっていることを見出した(Saito et al.Phys.Rev.A62(2000)042503)。共鳴オージェ分光により、内殻励起状態で屈曲振動が伸縮振動と共に励起されることを明らかにした(Muramatsu et al.Chem.Phys.Lett.330(2000)91)。さらに、多重イオン同時計測運動量イメージング法を用いて、内殻励起状態での屈曲振動は入射光偏光軸方向に選択的に起こる、つまり、C_<2v>におけるA_1内殻励起状態のみが曲がった安定構造をもつことを明らかにした(投稿準備中)。

研究成果

• [文献書誌] 上田潔: "内殻励起分子の電子緩和と解離のダイナミクス-BCl_3におけるB1s励起場合"放射光(日本放射光学会誌). 13・2. 171-181 (2000)
• [文献書誌] K,Ueda: "Dynamical Auger emission induced by multi-state vibronic coupling in the core-excited states of the BCl_3 molecule"Physical Review Letters. 85. 3129-3132 (2000)
• [文献書誌] N,Saito: "Molecular deformation in the Ols^<-1>2π_n excited states of CO_2 probed by the triple differential measurement of fragmentions"Physical Review A. 62(2). 042503 (2000)
• [文献書誌] K.Okada: "High resolution angle-resolved ion-yield measurements of H_2O and D_2O in the region of Ols to Ryderg transitions"Chemical Physics letters. 326. 314 (2000)
• [文献書誌] Y.Muramatsu: "Nuclear motion in the Ols^<-1>2π_n core-excited states of CO_2 probed by sub-natural-midth resonant Auger emission spectroscopy"Chemical Physics Letters. 330. 91 (2000)
• [文献書誌] Y.Shimizu: "Subnatural-midth angle-resolved resonant Auger electron spectroscopy of atoms and moleculec on…"Journal of Electron Spectrosc.Relat.Phenomena. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] K.Ueda: "Angle-resolved electron and ion spectroscopy apparatus on the soft X ray photochemistry beamline BL27SU at SPring-8"Nuclear Instruments and Methods A. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] A.Hiraya: "H_2^+ formation from H_2O^+ mediated by the core-excitation induced nuclear motion in H_2O"Physical Review A. (印刷中). (2001)