本研究では、フェムト秒パルスのスペクトル成分ごとに独立に位相差を与えることで任意の位相関係に固定し、そのパルスで励起することによって、溶液や固体などの凝縮相中で電子波束の生成・検出を行うことを試みた。 まず、電子波束制御を行うためのフェムト秒位相制御光源の開発を行った。4-f光学系で液晶空間光変調器(SLM)を用いた、波長分解能200nm/128pixel、位相シフト分解能6πradian/700stepをもつフィードバック位相制御システムを構築した。さらに、位相制御の一例としてパルス内の相対位相の平坦化を試み、周波数分解光ゲート法により、パルス内の相対位相のシフト量が0.3ラジアン程度となる分散曲線を取得した。 この位相制御光源で生成したフェムト秒チャープパルスによって、エタノール溶液中のシアニン色素分子を励起し、励起状態分布数のパルスチャープ依存性を調べた。特にパルスチャープの向きが負の場合には励起状態分布数は励起直後に大きく減少し、正の場合には大きな分布数が残る。 この実験結果を半定量的に再現するために、振動状態と結合した2準位系に対して量子力学的計算を行った。負チャープの場合は、パルスの前半部分の吸収によって生成された励起状態波束と、基底状態に残された波束の空間的重なりが保たれ、誘導放出が効率的に起こる。それに対して、正チャープでは、0fsでの波束のひろがりが大きく、パルスの後半部分でも吸収が支配的になるために、パルス通過後の励起状態分布数が大きく残っている結果となった。
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