平成11年度および12年度までに、衝突電子のエネルギーが、しきい値から1000eVの範囲にわたり、Ne、Ar、Kr原子のnp→ns遷移(Ne : n=3、Ar : n=4、Kr : n=5)に対する発光断面積(可視から近赤外域)の絶対値を精度良く系統的に測定できた。しかしながら、近赤外領域での、分光系の感度補正に若干問題があることが判明した。標準光源のない波長領域でもあり、Ar原子線を基にした遷移分岐比法を適用して感度を決める方法をとり、慎重に計測を繰り返した。得られた結果をもとにして、2p_9→1s_5遷移に対する発光断面積を精度良く決定できた。従来の報告結果と比べると、絶対値やエネルギー依存性において、かなり異なる様相を示していることが判明した。 2p_9準位(パッシェン記号)は、ほぼ純粋なLS表記が成り立つ状態であり、^3D_3と表される。ところが2p_9→1s_5遷移に伴う発光断面積の衝突エネルギー依存性は、予想に反して、ほぼ〜E^<-1>(Eは電子線の衝突エネルギー)であり、スピン交換過程が成り立つ場合に特有な〜E^<-3>とはほど遠い依存性を示すことが判明した。高速パルス発振器とデジタルオッシロスコープとの組み合わせで、残光の時間依存性の測定を行った。これにより、2p_9励起準位の占有率の解折が可能となる。つまり、2p_9準位より更に上の準位からカスケード的に2p_9準位に遷移してくる占有率と、2p_9準位への直接励起による占有率との比を求められる。前者がかなり大きな割合を占めることを実験的に示すことが出来た。
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