研究概要 |
北海道古第三紀炭質頁岩,石炭(三美炭鉱;夕張層,美唄層,幾俊別層,羽幌炭鉱;羽幌層),島根県中新世石炭(高窪炭鉱;川合層/波多層,矢田炭鉱;松江層)を採取した。これらと既存のサハリン新第三紀石炭について高等植物バイオマーカーのガスクロマトグラフ質量分析(申請設備:HP6890+H5973 GC-MS)を行った。一部の試料について現有設備により分子レベル炭素同位体比の測定を行った。 試料ごとに高等植物由来の化合物組成が異なっていたが,北海道始新世石炭は最も多様な高等植物バイオマーカーを含んでおり,各種ジテルペノイドが検出された。これらの分子レベル炭素同位体比は-26パーミルから-15パーミルの範囲にあるがいずれもn-アルカンの炭素同位体比(約-28パーミル)よりも大きな値を示した。ジテルペノイドの中ではジアロマティックトタラン(diaromatic totarane)が最も小さな炭素同位体比を示し,この前駆的化合物(トタノール)の生合成に際して最も大きな炭素同位体分別が生じていることを示している。 各種バイオマーカーのうち芳香族バイオマーカーである,リテン(retene)とジアロマティックトタランはすべての試料に共通して含まれていた。いくつかの試料についてこれらの分子レベル炭素同位体比を測定したところ新しい時代のものほど炭素同位体比がより軽くなる傾向が明らかに認められた。とくにジアロマティックトタランでは顕著であった。古第三紀新世から新第三紀始中新世の期間は大局的に著しい寒冷化の時代であり,大気の二酸化炭素分圧がおおきく低下していったことが考えられる。高等植物バイオマーカーの炭素同位体比から過去の大気の二酸化炭素分圧を検討できる可能性があり,残りの研究期間,さらにデータを増やして検討を深めたい。
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