研究概要 |
本研究は,淡水生巻貝であるモノアラガイ(Lymnaea)を主に用いて,軟体動物における殻の殻体形成機構,特に殻の巻きのメカニズムを明らかにすることを目的とする.本年度は以下の研究を行った.(1)殻タンパク質ARPの単離と構造解析:二枚貝類アコヤガイの外套膜より極めてアスパラギン酸に富む殻タンパク質(ARP)をコードするcDNAの全長を単離し,全配列を決定した.また,RT-PCRにより,ARPが外套膜の方解石を沈着する部分でのみ発現しており,結晶多形の制御に関与している可能性が高いことを明らかにした.(2)Lymnaeaの殻タンパク質の解析:殻体抽出物をSDS-PAGE展開することにより,Lymnaea殻体中に分子質量が53, 24, 21kDaの少なくとも3種類のタンパク質が存在し,53kDaのものは糖タンパク質であることを明らかにした.(3)Lymnaeaの初期発生ステージの組織化学的観察:Lymnaea初期発生の各ステージの組織切片を作成し,原殻形成までの過程を観察するとともに,in situハイブリッド形成法を行うための系を確立した.(4)LymnaeaのHox遺伝子の単離:RT-PCR法により,Lymnaea幼生より調製したcDNAを鋳型としてHox遺伝子のホメオボックス部分配列を増幅し,クローン化ののち塩基配列を決定した.これによりHox遺伝子クラスターの各部分に対応する遺伝子を同定した.遺伝子発現の解析のため,前方と後方のそれぞれ1つの遺伝子断片について,現在RACE法によってさらに長い領域の配列の決定を行っている.また,他の形態形成に関連する遺伝子の単離を行うために,Lymnaea幼生より調製したcDNAをもとにcDNAライブラリーの作成も行っている.(5)Lymnaea受精卵へのマイクロインジェクション:RNA干渉法による遺伝子の機能解析を行うための基礎実験として,卵嚢に入った状態で受精卵に顕微注入する方法を開発した.
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