本年度は研究期間の最終年度にあたり、研究のまとめを行うと共に、研究論文の作成を行った。すべての成果を論文形で公表するためにはまだしばらくの時間が必要であるが、全体として申請時の予定を上回る成果を上げることが出来たと総括することが出来る。本年度の研究成果をまとめると、(1)揮発性元素としてのハロゲン元素分析法の確立と、隕石試料への適用、(2)難揮発性親鉄元素の隕石中での存在度とその宇宙化学的意味の考察、(3)希土類元素、トリウム、ウランの隕石中での存在度とその宇宙化学的意味の考察、それに分析化学的研究として、(4)宇宙化学的試料の元素分析法の開発とその応用、となる。このうち、(1)では、隕石のような固体岩石試料中の安定4ハロゲン元素の分析法を開発し、隕石試料へ適用した。また、フッ素を除いた3元素について隕石中での元素の分布を調べ、ヨウ素が塩素、臭素と異なる分布をし、高温鉱物である輝石や長石にも少なからず含まれることを見出した。これはヨウ素の宇宙化学的挙動を理解する上で重要な知見である。(2)の難揮発性親鉄元素とは、いわゆる白金族を中心とする元素で、地球では核に存在する。火星隕石中のこれら元素を正確に定量したところ、火星の場合もほとんどは核に存在すると考えられるが、マントルににもコンドライト含有量の10^<-2>から10^<-3>程度存在する。これは、核が形成された後、隕石物質が火星に落下することによりもたらされたものと結論できる。(3)の研究は丁度終了したところで、これから論文の作成にはいるが、コンドライト隕石を特徴づける球粒(コンドルール)中の希土類元素、トリウム、ウランを正確に測定したところ、隕石母天体での熱変成に応じたこれら元素の動きをコンドルール中に認めることが出来た。これは、かつて全岩試料中での希土類元素の動きを考察したが(論文作成中)、その結論と整合するものである。
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