凝縮系化学反応において、溶媒は反応エネルギーを溶質分子に(/から)供給(/吸収)するエネルギー源の役割を果たしている。本年度は、溶媒と反応分子間のエネルギー移動機構や反応分子内のエネルギー再分配機構を明らかにするために、化学反応分子動力学法やKramers-Fokker-Planck方程式を基礎に、非定常な非平衡分布を求めた。さらに局所的温度と微視的なエントロピー生成速度などを定義して考察した。 (1)文献調査と研究資料収集:実験・理論両面の論文等の調査により、概念的整備と現実的反応系を探索して、対象となる化学反応系全般に関する実験結果や実験データの収拾を行なった。さらにピコ秒・フェムト秒分光学の実験的成果の理解を深めて、非均一系に対する非平衡統計力学の手法を再考・吟味して、その拡張可能性を追求した。同時に本研究計画の最終段階で必要となる大規模数値計算を精度良く実現するための、応用数学や数値解析上のテクニックを、それぞれの分野での研究成果を調査して習得した。 (2)局所的な温度、熱流束、エントロピー生成速度:本研究では、近年ピコ秒分光学において議論されてきた非熱平衡分布の存在を理論的・計算化学的に例示してミクロスコピックな解釈を与えた。そのために大規模コンピユータ計算を実行し、その計算結果の解析と可視化により非平衡系としての溶液化学反応系の時空構造を解明した。実際、コンピュータ・プログラムの汎用化を進めると共に、アプリケーション・コードの開発を推進した。さらに得られた数値データをグラフ化や可視化を通して解析した。中間的な研究成果発表を平成11年9月に開催された分子構造総合討論会で報告した。
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