研究概要 |
今年度は,p-テルフェニルにドープしたペンタセンの光励起三重項状態を用いた動的核偏極を行う装置を開発し,核偏極の過程を研究するために,以下の実験を行った. (1)試料に98%重水素化したp-テルフェニルを用いて,残りの2%のプロトンのスピン偏極を熱平衡時に比べて40000倍に増大することに成功した.このようなプロトンが希釈されている系では,スピン拡散が起こらない.したがって,実験で確かめられたような希薄なプロトンスピンの高偏極は,光励起した三重項状態の電子スピンの偏極が数十オングストローム以上離れたプロトンに直接移動していることを示している.この現象を使うことにより,炭素13などの希薄スピンの偏極が可能にあると考えられ,現在その実験の準備を行っている. (2)ペンタセンが試料中で均一に光励起されているかどうかを確認するため,試料へのレーザー入射方向に磁場勾配をかけて核スピン偏極の1次元NMRイメージング実験を行った.その結果,励起レーザー光の強度を十分に上げれば光が奥まで浸透していくことを見出した.また,弱いレーザー強度でも,励起レーザー光の波長をペンタセンの吸収極大からずらし,故意に吸収効率を下げることによって試料の奥まで光が通り,均一にペンタセンを励起できることを示した.この結果により,粉末試料を用いても高偏極が得られる可能性が確認できた.
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