研究概要 |
フェムト秒時間分解光電子画像観測法を開発し、分子線中でピラジン分子の電子位相緩和を一重項成分の減衰と三重項成分の増大の両方から観測した。S1状態に由来する高速の電子は励起後100psで消失し、三重項からの低速電子が同じ速度で増大した。さらに、光励起直後にT2(p,p*)が生成しS1と共に減衰することが示唆された。この結果は、スピン軌道相互作用の選択則に基づき、S1より下にT2(p,p*)が存在すると推測したE1-Sayedの主張を支持するものである。ピラジンの電子状態には、二つの窒素原子間のthrough bond相互作用が反映されるため、配置間相互作用を取り込んだ量子化学計算との比較に興味が持たれる。 T2(p・p*)から陽イオンの基底状態(n-1〉へのイオン化は二電子過程であり、一光子遷移では非効率と考えられる。実際、[1+1']光イオン化ではT2(p,p*)は明瞭に観測されなかった。この事実は、今回の実験で2光子イオン化を用いたことが本質的であることを意味する。また、ピラジンについてはZEKE(PFI)法による光電子スペクトルが報告されているが、ZEKE状態の寿命のばらつきがスペクトル強度を歪めている可能性がある。我々は高分解能の[1+1']光電子画像分光をナノ秒レーザーで行った。得られた光電子画像の形状はZEKEの結果に近いことが確認された。
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