研究概要 |
植物の発生や生長,分化などの様々な過程に広く関係して,環境の光情報を植物に伝える重要な役割を果たしている光受容色素蛋白質フィトクロムは,開環状テトラピロール化合物の一種であるフィトクロモビリン(PΦB)を発色団として有する。この PΦB 及び類似の構造を有するフィコシアノビリン(PCB)のジメチルエステルは,1980 年以前に合成されていたが,アポタンパク質と結合可能な遊離のカルボン酸側鎖を有する PΦB 及び PCB の合成は,目的化合物が不安定なこともあり,これまで達成されていなかった。そこで,我々は,発色団とアポタンパク質との相対的配置や相互作用,並びに発色団の構造と機能の相関関係,更に光合成系遺伝子発現・調節機構の解明を目指して,遊離の PΦB 及び PCBとそれらの誘導体の高効率・高選択的合成法を確立することを目的として研究した。その結果,以下のような成果が得られた。 (1)B,C環側鎖のプロパン酸残基の保護基としてアリルエステルが最適であることを見い出した。 (2)極めて効率的なB,C環に共通のピロール誘導体の一般合成法を確立した。 (3)A環及びD環の新規簡便一般合成法を確立し,D環への光活性基の導入にも成功した。 (4)上で得られたA,D環とB,C環との新しいカップリング反応を開発することができた。 (5)上記の成果を活用して,効率的な AB 環及び CD 環の新構築法を開発し,世界ではじめて遊離の PΦB 及びPCBの合成に成功した。 (6)化学合成した PΦB 及び PCB はアポ蛋白質と容易に結合し,天然型のフィトクロムと同様の機能を有するホロ蛋白質を与えることを見い出した。
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