研究概要 |
本研究者の開拓した光学活性ホスフィンに2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(BINAP)、ジアミンに1,1-ジ-4-アニシル-2-イソプロピルエチレンジアミン(DAIPEN)を配位子とするルテニウム錯対触媒は、ある種の芳香族および不飽和ケトン類の水素化で高いエナンチオ面識別能を示したが、鎖状のα,β-不飽和ケトン類あるいは強い電子吸引性基の置換した芳香族ケトン類等に対しては十分な選択性が得られなかった。申請者はこの原因をBINAPの不十分な立体制御に拠るものと推測し、より立体要請度の高い2,2'-ビス(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(XylBINAP)とDAIPENを配位子とするルテニウム錯体触媒を用いて検討したところ、あらゆる鎖状の芳香族ケトン類を高エナンチオ選択的に水素化することに成功した。最高100%の鏡像体過剰率を達成した。例えば、アルキルフェニルケトンの水素化では、アルキル鎖にメチル、エチル、イソプロピル、およびシクロプロピル基をもつ基質に適用できた。ベンゼン環上の2位、3位、あるいは4位にアルキル基、ハロゲン、トリフルオロメチル、あるいはメトキシ基をもつアセトフェノン類も高選択的に水素化できた。エナンチオ選択性は置換基の電子吸引性および供与性に影響されない。さらに本触媒は高い官能基安定性を示した。例えば、水素化金属反応剤とは反応してしまうニトロ基あるいはアミノ基を全く損なうことなく選択的にカルボニル基を水素化できた。従来高エナンチオ選択的還元が困難であった、2,2,2-トルフルオロアセトフェノン類の不斉水素化にも成功した。さらに、本ルテニウム触媒はベンザルアセトン等の鎖状のα,β-不飽和ケトン類の不斉水素化にも適用でき、種々の2、3および4置換オレフィンを含むエノン基質を高エナンチオ選択的に対応するアリルアルコールに変換できた。オレフィン部分が還元された生成物は認められなかった。
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