研究概要 |
本研究者は、前年度の検討において光学活性ホスフィンに2,2′-ビス(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,1′-ビナフチル(XylBINAP)、ジアミンに1,1-ジ-4-アニシル-2-イソプロピルエチレンジアミン(DAIPEN)を配位子にもつルテニウム錯体触媒が、あらゆる鎖状の芳香族ケトン類および種々の2、3および4置換オレフィンを含む鎖状のα,β-不飽和ケトン類の水素化において極めて高い反応性とエナンチオ選択性を示すことを見いだした。最高100%の鏡像体過剰率を達成した。現在もっとも高い活性とエナンチオ選択性を示すケトン類の均一系不斉水素化触媒である。 この成果を基に、本年度は、これまでほとんど報告例のない非対称ベンゾフェノン類の不斉水素化の開拓を試み、所期の目的を達成した。すなわち、オルト位にメチル基、メトキシ基、フッ素、塩素あるいは臭素をもつベンゾフェノン類を水素化することにより、対応する光学活性ベンズヒドロール類が最高99%の鏡像体過剰率で定量的に得られた。従来の触媒では、生成物のベンズヒドロールが容易に加水素分解されて、ジアリールメタンを副生することが知られている。本触媒を用いることにより、高い官能基選択性とエナンチオ選択性を一挙に獲得することができた。 本研究者は、複素環を含む光学活性第二級アルコール類を効率的に供給できれば有機合成上極めて有効であると考え、対応するケトン類の不斉水素化の検討を行った。その結果、フラン、チオフェン、チアゾール、ピロールあるいはピリジン環を分子内にもつケトン類を最高99.8%の極めて高い光学収率で水素化することに成功した。エナンチオ選択性および基質の一般性で他の触媒の追随を許さない。 本研究で見いだした方法論を用いて、有用生理活性物質およびその合成中間体の効率的不斉合成を検討した。その結果、本水素化が抗ヒスタミン剤のネオベノジン、ビタミンE側鎖、セロトニン取込阻害剤のデュロキセチンの合成に有効であることを明かにした。
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